弁護士の就職と若手弁護士の仕事 blog

弁護士の就職と、若手弁護士の仕事について、まもなく中堅に差し掛かりそうな弁護士が知っていることを記録するブログです。

弁護士の就職⑧ 事務所選びのコツ

就職活動をする際、実際に事務所に入って働いたことがあるわけではないので、どの事務所に入るべきか(就職活動すべきか)迷う方もいらっしゃると思います。

私が考える事務所選びのコツは、次のとおりです。

 

1 取扱業務に興味が持てるか

2 待遇に満足できるか

3 「人」の雰囲気が合うか(面接担当弁護士の下で指導を受けて働く気になるか)

4 将来性(想像)

5 オフィスが気に入るか(広さ、清潔感など)

 

要はその事務所で働く気が起きるか、という問題ですが、

細分化すると以上のようになるかなと思います。

 

1 取扱業務に興味を持つことができるかは、一番重要だと思います。

  正直、仕事はやってみなければ自分に合うかどうかは分かりません。しかし、仕事を始める前からそもそも興味を持てないならば、その事務所は合いませんし、早晩やめることになってしまう可能性が高いと思います。

  好きでなくても構いませんが、やることになったとして、興味を持てるかどうかです。

  私も以前事務所の採用担当をしていて、沢山の修習生、受験生を面接し、入所後の様子も見てきましたが、取扱業務に興味を持てない人からやめていってしまいます。

  取扱業務に興味といっても、入ってやらなければわからないところもあると思います。それでも、たとえば選択科目を選ぶときに、受験向けに選ぶということとは別に、自分が興味を持てる科目はなかったでしょうか。又は、大学やローで興味を持った授業や分野はなかったでしょうか。それらで興味を持った科目や分野を取り扱っている事務所に入る、就職活動の対象にするというのが、お勧めの方法です。

  分野は、大きく分けて、企業からの依頼をこなす企業法務と、個人の方からの依頼をこなす個人法務(一般民事という言葉が多くの場合指すのは個人法務かもしれません。)の二つです。ここは本当に好みです。

  社会的不正義を正したい、権利救済に尽力したいという気持ちが強い場合は、どちらかといえば、個人法務の方が合うでしょう。企業法務ではそのような側面は正直言って希薄で、ビジネスや経済活動を支え、企業間の紛争を解決し企業の力になるという仕事が多く、対消費者の側面では、たとえば消費者被害が出たケースでは、企業側の立場に立ち、合理的範囲でできるだけ消費者への賠償額を少なくし、企業活動への影響を最小限にするというのも仕事の一つになります。これが社会的正義に叶うのかといわれると何ともいえないといいますか、むしろ不正義ではないかという批判もあり得るところで、しばしば左系の先生方が企業法務系の事務所を批判するのは、このような視点からということもあります。

  他方、企業法務ならではのスケール感、高級感(登録当初の給与・報酬も企業法務の方が多くの場合高いです。)、理論的高度さ(個人法務でももちろん高度な法律問題は山ほどありますが)もあります。

  個人法務は、たとえば、離婚問題や交通事故、労働問題で労働者の力になる、多重債務者の方の債務整理をお手伝いする、などです。私は個人法務の取り扱い経験が乏しいので、このブログで記述が浅く申し訳ありませんが、非常に魅力的な業務の一つだと思います。日本の弁護士の多くは、個人法務を中心に扱う弁護士です。それだけやりがいがあり、ニーズもあるということです。

  個人法務に興味があるが、大手事務所から勧誘を受けたのでひとまず大手事務所に入るというのは、選択肢として完全に間違いとは言いませんが、お勧めしません。大手事務所で個人法務を扱う機会はほとんどゼロと予想され、興味がある仕事にかかわる機会が得られず、ほどなく関心を持てなくなり事務所を辞めることになってしまう可能性があるからです。しかし、個人法務を経験してから企業法務事務所に行くのは一般に難しい一方、企業法務事務所から個人法務中心の事務所に行くことは比較的容易かもしれませんので、全く個人法務を扱わない可能性が高い大手事務所ではなく、中規模又は小規模の事務所に入り、企業法務を中心としつつ個人法務も扱える環境で仕事をしてみるというのは選択肢の一つではあります。

  以上の次第で、個人法務に興味があるならば、大手ではなくて、顧客の紹介等で個人法務も扱う中規模事務所に入る方がお勧めです(入ることができるかどうかはさておいて)。大手事務所や外資、ブティック系の事務所は個人法務を扱う機会はほぼゼロでしょうが(私の所属事務所も、個人法務はほぼゼロで、仮に依頼したいという話があっても他の個人法務を扱う先生にご紹介しています。選択と集中ですね。)、中規模事務所では多くの場合、個人法務を取り扱う機会もそれなりに得られると思います。

 

2 待遇も重要です。

  正直、1年目の給与・待遇などさして重要ではなく、問題は何十年も務めることになるであろうパートナー、経営者になってからどれくらいの仕事(収入)が得られるかなのですが、特に初めて社会人となる新人弁護士の頃は、初任給がいくらかを他の新人弁護士と比べ一喜一憂するものなんですよね(私もそうでした)。

  そして、待遇に不満があればモチベーションが上がらず、もたなくなりますので、待遇は、客観的にはそのような短期の差はたいして重要ではないが、主観的には極めて重要なことが多く、主観的に重要ならば事務所選びでは重視することにも合理性があるだろう、ということになると思います。自分の就職活動ですから、遠慮する必要はないと思います。

 

3 人との相性は当然のことですね。尊敬できる先生が見つかれば、その下で働く気にもなると思います。逆に、面接してくれた弁護士がネチネチした性格で合わなそうであるとか、レベルが低く感じたとか(修習生目線でこのように感じるのは多くの場合勘違いかもしれませんが)、そのような場合はその事務所はやめておくのが無難です。入ってからよりその違和感は強くなります。

 

4 将来性は、事務所に入る前までは分からず想像するしかありませんが、たとえば、以下①から③の事務所に入るときはよく考えたうえで入ることをお勧めします。業界で評価を得ている著名事務所(企業法務系でいえば、四大はもちろん、準大手、中規模事務所や外資、ブティック系も多くがこのカテゴリーですし、小規模でも多くあります)に入っておくと、その後の転職や弁護士人生に良い影響を生みます。逆もまたしかりで、どこまで行っても「あの弁護士はあの事務所の出身だ」という評判がついて回りますので、最初の事務所選びは極めて重要です。

①ボスがかなり上の期で、残りは大きく離れた新人弁護士ばかり

→一定年数以上在籍すると追い出される可能性があります。5年から10年以上やると弁護士も一応(あくまで一応です)一人前になり、自分のクライアントもつきはじめ、事務所経営に口を出したくなったり、ボスに言われずとも自分のやり方でやりたくなったりボスのクライアントが持っていかれてしまう可能性も出てくるので、一定年数以上いると「そろそろ独立したらどうだ」という話をされるという事務所が一定数あります。独立や移籍をすればいいことではあるのですが、安定して長年働くということはできないし、ボスのクライアントを共同で担当したりもらうということは考えにくい環境なので、そこは覚悟して入る必要があります。

弁護士法人自体でクライアントを取っている事務所(特に新興系)

いわゆる新興系の弁護士法人を作っている事務所などでは、事務所自体で集客し、それを中のアソシエイトが分担して担当するという環境であることが多いです。この場合、出資し自分自身のクライアントから得る収入で生きているといういわゆるパートナーは想定しにくく、永遠にアソシエイトすなわち事務所から給与をもらって生活するということになる場合があります。それはそれで一つの生き方で、何も悪いことはありませんが、自営業というより会社員に近く、収入も頭打ちになりやすくなります(事務所から給与をもらって働けているということは、事務所はそれ以上の収入を得てアソシエイトに給与を払っても収入を確保しているということですから、クライアントから得られる報酬に限界がある以上、自分が中抜きなしでクライアントから直接報酬を得るより必然的に少ないし収入になります)。

仕事を取る心配をしなくてよい立場で長年いられるというのは、これまでにはなかったビジネスモデルで、10年以上の経験がある弁護士や元裁判官、元検察官で自分のクライアントが十分にはいない方の所属も増えているようです。

③ボスの期が浅い(登録5年未満など)

弁護士業は職人的な側面があり、代々受け継がれる技術や暗黙知をどれだけ若いうちに学べるかで、その後の弁護士としての力(それは当然、集客にも影響します)に影響します。期が浅いということは、ボスもまだ修行中ということです。ボスの出身事務所が上記のような著名事務所であるかどうかはよく確認しておくべきと思いますが、期が若いと、修行中のボスから教わることになりますので、押して知るべしです。経験年数が多ければ多いほどいいということではもちろんありませんが、期が浅い、特に3年未満とか5年未満のボスの事務所は、将来の自分のために、できるだけ避ける方がよいと思います。弁護士は、最近では5年から10年前後で一応一人前として独立したりパートナーになったりしますので、できれば10年以上は経験があるボスの事務所に入るのがよいと思います。もちろん、あくまで可能性の問題で例外もないわけではないでしょうから、参考としてご覧ください。

特に企業法務分野では、分野が専門化しやすく、一定年数の業務経験がないと仕事を一人で回せるようにはなりにくい気がします。一般民事系事務所からの独立は3年前後からよく見かける一方(それより短かったりソクドクもあり、それはそれで何とかやっていけるようです)、企業法務系事務所からの独立は3年前後ではほとんど見かけません(5年以内なら移籍がほとんどだと思いますし、独立しても取り扱いは一般民事が中心になったりします)。顧客が取れないということも一因だと思いますが、企業法務系は経験年数が必要になりやすい分野だと思いますので、この観点からもやはり、ボスの期が浅い事務所に入るかどうかはよく考えてからがよいと思います。