弁護士の就職と若手弁護士の仕事 blog

弁護士の就職と、若手弁護士の仕事について、まもなく中堅に差し掛かりそうな弁護士が知っていることを記録するブログです。

弁護士の就職③ 企業法務系事務所の分類(規模別、外資系、ブティック系)

この記事では、企業法務系事務所への就職活動について書こうと思います。

 

企業法務系事務所の種類は、規模別で分けると次のとおりです。

 

・大手事務所 

 いわゆるNA,NOT,MHM,AMTです。企業法務のうち、すべての業務分野を扱い、どの分野も深い専門性があります。もちろん、事務所により強み弱みはあります。TMIは大手とみるか、準大手とみるか、人によって違うかもしれません(業界内で、いまだに四大という人もいれば、五大という人もいます)。

 各分野の専門家が集まった事務所という印象で、大手で生き残るためには、特定の分野で突き抜ける必要があり、弁護士も年次を経るほどに専門化していくのが一般的です。分野ごとに最先端の案件も集まりやすいので、将来は一つ(又は二つ程度)の分野を極めたいという方が合うことが多いと思います。最初は複数分野の仕事を経験できる事務所もあるようですが、基本的には、目指す先はジェネラリストではなくスペシャリストです。たとえばファイナンスを扱う弁護士は、訴訟を1件も扱ったことがないという人も本当にいます。各分野で深い専門性を有する、かつ優秀な人材が揃っており、案件も大規模なものや最先端のものが集まることが多いと思います。

 各分野ごとに必要なパートナー数は必然的に絞られるので、当然競争は激しく、また幅広く業務を扱いたいということで中規模の事務所などに移籍する弁護士もそれなりにいる印象です。アソシエイト弁護士の移籍は少なくないので、毎年一定数が辞めることを見込んでそれなりの人数を採用する傾向があります。激務であることも多く(通常営業日は朝10時頃から朝3時まで仕事、などという弁護士も珍しくないようです。)、その分給与は一般に高いところが多いようです。1年目で多くの事務所は1000万円は確実に超えると思います(もちろん、事務所や採用された時の景気状況などによります。)

大手事務所では、留学の補助は十分に出るといわれており、留学後の現地事務所の勤務先を紹介してくれる場合もあると思います。ただし、事務所から弁護士への期待度によって、補助の金額が違うこともあるようで、その点でも厳しい競争が待っています。

後述の準大手、中規模事務所と比べたとき、大手のデメリットは、激務であるか否かはさておいて、早々に特定分野に集中しなければならない傾向が強いことだと思います。専門分野に特化してガリガリ仕事がしたいという人には向く一方、様々な案件に関与したいと考えている人には向かないかもしれません。

しかし、世の注目を集める案件では、片方の代理人が四大の一つ、もう片方の代理人が別の四大などということもよくあり、大きい先端的な案件が集まりやすいことは、ほかには代えがたい魅力といえるかもしれません。

 

・準大手(100人前後)

 上記大手と、後述の中規模の中間です。

 

・中規模(10名から50名くらい)

 大手、準大手事務所に比べて、様々な分野を扱うことは同じですが、扱う業務分野が多少少なかったり、専門性が高くない分野があることがあります。大手、準大手に比べると、顧問契約を基礎とする仕事が多い印象もあります(大手、準大手だと、顧問契約はコンフリクトになりやすいので締結を避けるところもあるようです)。しかし、事務所によっては深い専門性を有する弁護士が所属していることも多く、業務や案件の質が大手、準大手に劣るとは限りません。メガバンクの一つから依頼を一手に引き受けている、著名かつレベルの高い事務所もあります。

 全体的な傾向としては、最終的にはスペシャリストを目指すことは同じですが、分野は大手、準大手に比べれば幅広くなりやすく、また一般民事も扱うなど、一人の弁護士が扱う業務分野が広い傾向にあるような気がします。もちろん、事務所や弁護士によりますが。

 中堅事務所で最も多いモデルは、新人弁護士の採用後は基本的に全員又は多くがそのまま順調に働いてパートナーになってもらう、というものである気がします。大手、準大手では、多くのアソシエイトは途中で離脱、脱落し、一部のみがパートナーになることが想定されていることとは対照的です。

 採用は毎年(又は隔年で)1人からせいぜい数人で、その意味では大手、準大手より狭き門です。給与は、全体としては大手、準大手より低いかもしれませんが、1000万円を超える場合もあり、また大手、準大手よりは激務度合いは緩和されていることが多いかもしれません(ここは本当に事務所によりそうですが)。

 大手では、公益活動など本業外のことに熱心に取り組む先生は非常に少ないといわれますが、準大手、中堅事務所以下では、業務の傍ら公益活動などに取り組む先生もそれなりにお見掛けします。

 

・小規模(10名未満くらい)

 扱う業務分野は、中規模以上の事務所と比べれば限られています。核となるパートナー弁護士の専門分野、顧問先の案件に集中することが多いと思います。紹介であれば一般民事事件も扱うのが普通です。

 中小企業の企業法務と一般民事が半々の事務所もあれば、上場企業の顧問先が複数ある事務所もあり、また特定分野で著名な事務所(いわゆるブティック系事務所、後述)もそれなりにあります。東京でも多くの事務所は所属弁護士が10名未満なので、様々なタイプの事務所があり、千差万別です。

 一般的な傾向としては、人数が少ないので人間関係が固定化され、合う合わないが大きいのはデメリットだと思いますが、合えば好きな仕事を中心に幅広く案件を取り扱えるということもあります。

 採用は数年に1度、そもそも公募しないというところもあり、入ろうとして入れる事務所ではないことも多いです。所属弁護士とのつてが必要になると思います(なお、つては、元々あるつてもあれば、これから作れるつてもあると思いますので、全く入りようがないわけではありません)。給与は事務所によってまちまちで、初年度1500万以上の事務所もありますが、低いところは固定額は500万程度というところもあり、全体的には中規模事務所以上より低いところが多い気がします。現在では、500万円~1000万円の間のところが多いでしょうか。ただ、将来はパートナーとなることが前提の場合、個人事件の受任が自由なところも多く、シニアアソシエイトやジュニアパートナーとなったときの収入は、その人の能力次第で、大手、準大手、中規模事務所を超えるという場合もあります。

 

(番外編)

外資

 規模別ではありませんが、以上の人数による区分とは異なり、特殊な事務所として、外資系すなわち外国に本拠地を置く外国の事務所が日本に支店を出している場合をご紹介しておきます。

 外資系事務所の仕事は、当然渉外業務に偏っており、その点で後述のブティック系事務所の一つといえるかもしれません。収入は大手と同水準又はそれ以上であることが多いと思います。規模は比較的小さいところが多く、中規模事務所や小規模事務所と同様、非常に狭き門です。外国に多数の拠点を持っていることが多く、留学先には事欠きません。大手以上に厳しい、同じ事務所の世界中の拠点の弁護士との競争が待っていますが、同じ事務所の外国の拠点の弁護士と業務を行うことも多く、ワールドワイドな業務に専門的に携わりたいならば外資系を目指すのがよいと思います。

 バイリンガルが就職活動の際に有利であることは間違いありませんが、そこまででなく特殊な経歴はなくても、学歴、成績、年齢が高いレベルでそろっていれば入所している人もたくさんいます。英語は、優秀層として普通のレベルであれば、後は入って仕事をしながらできるようになってくださいということなのでしょう。

 なお、外資系と国内系の事務所が合併してできた事務所もあり、その場合は純粋な外資系とは扱う業務や雰囲気も違うかもしれません。

 

・ブティック系

 特定の専門分野に特化して強みを持つ事務所です。労働系、倒産系、知的財産系、ファイナンス系などに分かれると思います。特定分野に限り、大手、準大手のパートナーと同等又はそれ以上に著名な弁護士がいたりします。

 収入は事務所次第ですが、ブティック系事務所は企業法務の特定分野で強みを持つので、報酬額の大きい事件を多数取り扱っていることも多く、事務所は潤っているところが多いと思います。そのため、初任給が1000万円を超えることも珍しくない一方、事務所は潤っていても、昔からの徒弟制で新人時代は最低限の500万円程度、後は自分で客を取りなさいというところもあります。

 ちなみに、私が所属している事務所は、弁護士が10人未満の小規模事務所ですが、案件が特定の2分野に偏っており、それ以外の案件は非常に少なく、事務所全体では業務の9割以上がその2分野の案件です(2分野の場合をブティック系と呼んでいいのかどうか分かりませんが、一応ここではそのように分類しておきます)。新人時代の待遇は正直よくないのですが、代表弁護士の名前が業界内に(どの程度かはともかく)売れており、世間を騒がすような大きい案件が来たりするほか、何年かその事務所でやっていると、自然と●●分野に詳しい弁護士と認知され、弁護士個人にもその種類の案件が集まってくるという環境です。私は登録10年前後ですが、おそらく収入は大手や準大手の同期と同じくらいだと思います。自分が好きな特定分野に集中して経験を積むことができることはブティック系のいいところですが、小規模事務所としての一般的なデメリットはもちろんありますし、特定分野以外の案件はそもそも事務所に来ないので、ほかの分野の案件に携わる機会がなく、新人からずっといると偏った弁護士になってしまうかもしれません(大手や準大手もそうかもしれませんが、事務所全体には様々な分野の案件が来ているはずで、環境や能力によって関与する機会もあるはずです。)。ブティック系の典型例としてご紹介させて頂きました。