(余談)R2 司法試験結果
司法試験の合格発表がされたようです。
合格者数は1450人で、1500人を若干下回ったようですが、合格率が約39.1%でした(合格者÷受験者)。10年ほど前は20パーセント台で推移していたと思いますので、ほぼ4割というのは驚きました。
合格率が上がることも悪いことばかりではないと思いますが、勉強をきちんとしてきたかどうかという点でいうと、一般的には最低ラインが徐々に下がってきているということになると思いますので、就職活動の際も採用側はそれを前提に採用基準を設定すると思います。今まで以上に、司法試験や大学院の成績、予備試験合格の有無が問われる傾向が強くなるかもしれません。
なお、大手、準大手、中堅の一部を除いて、採用活動は司法試験の合格後から始まります。学歴のほかに、まずは司法試験の成績が見られ、書類選考の段階でかなりふるいにかけられることになる事務所が多いと思います(たとえば、1000番以下は一律カットなど)。
成績がすべてではもちろんないのですが、以前のように合格すればそれだけで勉強をきちんとしてきた担保があるという時代(旧試験の時代ですね)ではなく、採用側は今年もその傾向が顕著と捉える弁護士が多そうですので、就職活動をされる合格者の方は、まずはご自身の成績に注目ということになると思います。
なお、以上の分析はあくまで企業法務系事務所の傾向です。一般民事系の事務所や、企業法務系でも小規模の事務所などでは、成績ではなく人柄や熱意等を選考基準にするところも沢山あると思います。成績には一喜一憂しつつ、諦めずに希望する就職先に沢山アプライする(説明会も時間が許す限り沢山いく)のがよいと思います。私も、強い就職の希望まではなかったのですが外資系で著名な事務所の説明会に参加するなどして、外資系独特の雰囲気を感じることができたことはよい経験になりました。
弁護士の就職15 都市圏と地方の違い
(番外編)裁判官や検察官への道
このブログでは弁護士の就職活動を中心に記事を上げてきましたが、番外編として、裁判官や検察官になる道についても触れておきたいと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、
現在、日本では法曹一元という考えの下で、裁判官、検察官、弁護士のいわゆる法曹三者は、司法試験合格後に同じ司法修習で研修を受け、司法修習中に進路を確定してそれぞれの道を歩みます。
裁判官と検察官は、司法修習中に指導教官などの推薦を受けて、それぞれ裁判所、検察庁の所定の審査を得て任官します(と昔修習で説明を受けた記憶ですが、審査機関や手続は厳密には違うかもしれません。)。
それぞれの選考基準は、はっきりは公表されていないのですが、修習時の体感としては概ね以下のとおりです。
もちろん本人の希望があることが前提ですが、選考基準で飛びぬけてよい人やその見込みがある人には、研修所の教官からリクルートの声がかかります。
1.裁判官
司法修習中の成績(特に起案)
年齢
司法試験の成績
2.検察官
検察修習での成績、評価(取り調べの適性などを見られる)
年齢
司法修習中の起案の成績
志望度がどれくらい強いか
司法試験の成績
裁判官は、志望が強いかどうかより、すべての修習中の起案でよい評価を積み重ねることができるかどうかが重要です。なお、司法修習中の起案は、知識で差がつくというより、型や考え方が決まっているので、それをどれだけ正確に覚え再現できるかが成績に直結する気がします。弁護士志望の修習生はそれほど起案の成績は関係がないため(二回試験に落ちさえしなければOKという立場です)、手を抜かず継続的に起案の勉強をしておけばそれほど大変なことというわけではないのですが、修習中に他の修習生は修習生活を楽しんでいる中で自分は勉強時間を確保することができるかどうか、気持ちの面では大変かもしれませんね。年齢は、おおよその傾向としては、30歳よりは若くないと厳しいかもしれません。任官してからの年功序列によるポスト配転の関係ですね。ロースクール既習経由で最短の年齢から+2か3くらいまでは全く問題ないと思いますが、それ以上だともしかするとマイナス評価になるケースが出てくるかもしれません。司法試験の成績は、上位4分の1以内には入っている方がいいと思いますが、それを超えたからダメということもないと思います。修習中の起案の成績がほぼすべて、という感じです。
検察官は、検察官としての適性、志望度の強さがより重視されます。さすが体育会系の組織というべきか、検察官とのつながりで教官に事前に推薦され、司法修習に入るとすでに目をかけてくれるということもあります。起案の成績も、悪くてはまずいものの、検察起案以外は普通程度の評価でも差支えはないと思います。それ以外は上記裁判官で書かせて頂いたことと同じです。
司法試験受験生時代からできる対策としては、
どちらも、司法試験の成績をできるだけよい成績とすること、
また合格まで時間をかけすぎないこと(年齢の関係で)、
だと思います。
予備試験との関係では、どちらも修習中のことが主な選考基準なので、予備試験に合格していてもしていなくてもそれほど違いは出ないのではないかと思いますが、私は予備試験の世代ではないので詳しくは分かりません。
弁護士の就職14 企業内弁護士(インハウス)(1月16日加筆)
これまで企業法務系法律事務所への就職活動を中心に書いてきましたが、インハウスについても少し触れておきたいと思います。
インハウスへの就職は、法律事務所とは異なることが多いです。スケジュールとしては、東京なら、来年2月頃に修習生を対象として説明会が開催されますが、そこに多くの大手企業が出展して説明会を行い、その後選考が始まります。その他には、リクルートの一環としてロースクールごとに企業が出向いて説明会を行うこともあります。
後の採用は、一般の就職活動に近く、spi試験から始まるところもあります。面接は数回、担当者レベルから部門長、最後は役員クラスという段取りが多いようです。
インハウスの採用は、ここ10年くらいで一気に拡大してきた印象で、私も詳しく知らないのですが、法律事務所ほど希望者がいないため、選考基準は比較的緩やかなことが多いようです。私が最近聞いた話では、学歴が飛び抜けて良いというわけではない修習生が、誰もが知る大手企業に複数内定を貰っていました(人物は素晴らしかったようで、そこが評価されたのかもしれません)。学歴で一律にというより、人物などもみて総合的に判断というところが多そうです。
なお、インハウスで経験を積んだのち、企業法務系法律事務所への転職ができるかどうかという問題があります。少し前までは、インハウスは所詮企業内の弁護士で、最後は外部の弁護士に相談する立場におり、法律事務所では必ずしもウケが良くないなどと言われたりもしていましたが、最近は新卒で大手企業に入り、その後中規模以上の企業法務系事務所への転職に成功している例もよく見かけます。もちろん転職が叶うかどうかは個別具体的な事例によりますが、一般論としては、第二新卒での転職は十分可能と見るべきではないかと思いますので、それほどインハウスに入った場合のキャリアを悲観する必要はない気がします。
(以下1月16日加筆)
ただし、やはり個別案件を専門家として法的に徹底的に突き詰めるというプライベートプラクティスの経験は、法律事務所の方が一日の長があると思いますので、まずは弁護士になったら法律事務所にという従来の考え方も誤りということではないのかなと感じます。
ちなみに、法律事務所からインハウスへの転職は、一般には比較的容易といわれています。現にひまわり求人求職ナビを見ても、沢山の企業が日常的に募集しています。ただ、大手企業は新卒で採用して自前で育てるというスタイルを好むところもありますので、インハウスで生きていきたいという方は、初めからインハウスでの経験を積むのがよいかもしれません。インハウスからインハウスへの転職は、業務の親和性があり、採用側も安心できる材料になりますので、さらによく見かけるところです。
なお、インハウスは、傾向としては法律事務所より勤務時間が安定し短い傾向にあるようです。確かに、法律事務所では定時や時間外労働の概念はないところが多く、土日も仕事が終わっていなければ出勤しなければならないということも珍しくありませんので、その点は企業に雇用される一従業員となるインハウスとは異なるかもしれません。インハウスは男女比でいうと法律事務所より女性の比率が高いと思われますが、子育てや家庭と両立しながら安定した環境で働くという観点からは、インハウスの方が適していることが多いかもしれません。
弁護士の就職⑬ 給与の水準(加筆)
事務所や年によって全く異なりますが、事務所やキャリアパスごとの給与(報酬)の水準について私が把握している情報を書かせて頂きます。
第一にお金を儲けたいという場合は、弁護士ではなく、起業したり、外資系の会社に一般就職で入る方が、試験合格までのコストもかかりませんし青天井なので、弁護士以外の選択肢を選ぶ方が良い気もしますが、一つの参考としてご覧頂けますと幸いです。
なお、毎年毎年景気や業界動向によって変わるので、今の水準とは異なっているかもしれず、またカテゴリーは凡そで、事務所によって全く違う水準であることもよくあると思いますので、一個人の意見として参考程度でご覧下さい。
シニアアソシエイトまでは、事務所からの支給額と個人事件(自分で依頼を受けて対応する事件)の合計額の目安で、経費はそれほどかからないため一般就職の給与額面と大きく変わらないことが多いです。他方、パートナーになると基本的に個人事件中心となり経費もアソシエイトと給与や事務所賃料、事務員の給与支払いなどで何割かは経費で消えるため、単純比較はできませんが、以下の数字は経費差し引き後税金支払い前のおおよその目安の金額で記載しました。一般就職で会社に勤務する場合の給与額面に相当する金額として、参考としてご覧頂けますと幸いです。
1.四大、外資、一部ブティック
初任給 1200万円~1500万円前後
シニアアソシエイト(5年目以降から10年目前後まで) 1500万円~3000万円前後
パートナー 3000万円~数億程度
2.準大手、中堅、一部小規模
初任給 800万円~1200万円前後
シニアアソシエイト 1000万円~2000万円前後
パートナー 2000万円~(自分次第)
3.小規模
初任給 500万円~800万円前後
シニアアソシエイト 800万円~1200万円前後(個人事件次第)
パートナー 1200万円~(自分次第)
4.一般民事系事務所
初任給 500万円~700万円前後
シニアアソシエイト 700万円~(個人事件次第)
パートナー 1000万円~(自分次第)
※地方のベテラン弁護士の経費を引いた後税金支払い前の年収額面は、3000万円くらいが一つの目安と聞いたことがあります。
事務所によっては上記レンジ以外の事務所もあり、あくまでご参考値ですが、多くの先生に「まぁ、大体そんなものでは」と言っていただける水準ではないかと思います。
どの事務所も、新人からシニアアソシエイトまで続けられるか、シニアアソシエイトからパートナーに昇格できるか、もちろん選抜がありますが、この業界の収入水準は巷で言われているほど悪くない気もします。
ではお前の事務所はどうなんだとご質問を頂きそうですが、初任給は3、シニアアソシエイト以降は1という感じです。
弁護士は年収が下がっていると言われますが、新興系の事務所でも数年で1000万円程度は行くようですし、東京の企業法務系事務所では人手不足の傾向にあります。
なお、この中に記載がないカテゴリーでも、例えば刑事で著名な先生の中には億単位の売り上げを上げておられる方もいらっしゃるでしょうし、最近増えている広告を活用して規模を拡大している先生は10億円以上の売り上げを上げておられる方もいるかもしれません。弁護士業はやめて弁護士資格を利用して起業されている先生もいらっしゃいますし、弁護士も自営業者の一つということで、やり方次第かもしれません。
弁護士の就職⑫ 学部、ロースクールの成績について
学部やロースクールの成績が就職活動にどの程度影響を及ぼすかについては、事務所により評価が異なると思いますが、大まかな傾向として、
学歴ほどではないが、成績もそれなりに評価対象になる(重要である)
といえると思います。
以前の記事で東大ロースクールのブロック分けの話を書かせて頂きましたが、これも同じ話です。東大ローでは、少なくとも以前は、4ブロックあるうち2ブロックまで(上位半分)に入っていることが、中堅以上の企業法務系事務所では重要な指標になっていました。
ロースクールまで出ている場合、感覚的なお話で恐縮ですが、ロースクールの成績の方が重視される(学部の成績は、GPAの平均などが良く分からないことも多く、あまり悪くない限りさして考慮されない)気がします。
いずれにしても、どの大学、どのロースクールであっても、上位25パーセント程度には入る成績を取っておくのが無難だと思います。予備試験合格の場合、それが就職活動において圧倒的なステータス(有利な選考材料)になるので、それほど重視されないことが多いとは思いますが、学部やロースクールの成績は、普段からやるべきことを頑張ることができる能力の証明として、仕事を始めてから最も重要といってもよい指標になるという面もありますので、手を抜かずしかるべく成績は取っておくのが良いと思います。
企業法務系事務所を目指すうえで必ずしも有利とはいえない学歴の場合は、成績もその分上位を取っておくのが無難、ということは言えると思います。一般的には、予備試験や司法試験の勉強をしかるべく進めることができている場合は、学部やロースクールの成績で上位を取ることは難しくないはずです(と事務所の採用側は考えている、ということになります)。
(余談)司法試験の勉強について
大学生の方もこのブログをご覧頂いているようです。
かなり前の情報になってしまうのですが、司法試験(や予備試験)の勉強法とでもいうべきものを書いてみます。一個人の感想に過ぎませんが、私自身多数の先輩合格者の話を聞いて勉強法を模索していましたので、何か一つでも参考して頂けたら幸いです。
なお、私は新司法試験合格組で、ロースクールを卒業していますが、大学は他学部で、いわゆる純粋未修者として入学して勉強を始め、何とか1回で合格しました(順位も、一応就職に差し支えることはないだろう範囲でした)。
司法試験合格に向けての勉強は、山登りに似ている気がします。
たとえば、司法試験の合格が富士山であれば、頂上がある3776メートル地点に到達するためには、当然、かなりの距離を歩かなければなりません(かなりの勉強量は確保しなければなりません。)。また、歩きながら方向を間違えたり、上ることができない崖にぶつかったり、中腹付近をぐるぐる回ってしまうと、永遠に頂上にたどり着けないかもしれません(勉強の方向性を間違ってはいけません。)。頂上にたどり着かなければならない日が決まっていますから(試験日は決まっていますから)、のんびり歩いているとたどり着けず、それなりのスピードは必要です(試験日に合格できる水準の力をつけている必要があり、そのためにそれなりの密度の勉強が必要です。)。
1.当然、勉強量はかなり必要
2年から3年くらいは勉強中心の生活をするくらいの量は必要と思います。各科目ごとに、条文や制度の趣旨、文言、論点、判例などを理解した上で暗記し、最終的には答案に書く際の各文言(論証)もある程度暗記することが必要なので、どんな天才であろうと、凡人であろうと、必ず合格できる水準に達するためには、2年程度は勉強に集中する期間が必要だと思います(知らないことを編み出すことはできませんので。)。
2.質(勉強の方向性)も重要
司法試験の特徴として、知識、条文の適用を応用する力が問われるので、ただ教わって暗記するだけではだめです。条文や制度の趣旨を理解し(最終的には暗記し)、使えるようにすることが必要なので、教わったことを理解して覚えるという作業を繰り返すことが必要です。
この確認の機会として、いわゆるアウトプット(答練)が必要ということになります。
3.最終目標は、試験で点を取ること
1.2をしかるべく準備できれば、法的能力は十分な水準に至るはずですが、それだけでは必ず合格できるとは限りません。司法試験には司法試験の、予備試験には予備試験の、それぞれの採点方法や問題の癖(出題傾向)がありますので、それに合わせて「試験本番で必要な点数を取る」勉強が必要です。ここを誤解すると、富士山の3000メートルまでは問題なくこれたけれども、その後頂上まで何年たってもたどり着けないということになってしまったりします。
これはいわゆる過去問分析だとか上位合格答案の分析、時間内に答案に必要な事項を書き切る練習等です。どれだけ法的に正しいことを書いても、試験で点がつかないことを書いても意味がなく、試験時間を浪費するだけですので、1.2と3は別次元のこととしてとらえ、3のための準備も怠らず行う必要があります。
少なくとも私の時代は、新司法試験の採点は加点方式でした。おそらく、想定された加点要素(記載すべき事項)ごとに点が割り振られていました。
(元)試験委員の先生の授業のテストの採点方法なども参考になる場合があると思います。
4.偶然合格するのではなく、何度受けても必ず合格できる準備をする
合格を目指すなら、何とか合格できる水準ではなく、何度受けても必ず合格できる準備(勉強)をすべきだと思っていました。
そのためには、受験生であれば誰しも知っている知識はすべて理解し暗記していること、出題範囲はすべて抑えていること、などが必要です。
最後に、これから勉強を始めようと思っておられる方がすべきことは、最近の合格者できるだけ沢山の方から体験談を聞くことです。人によって勉強法や比重は違いますが、合格者であれば上記1から3(4をどこまで徹底するかは人によるかもしれません)を経ているはずで、共通点が見えてくると思います。この記事もその一つですし、昔ではmasoブロさんですとか、今はもっと勉強法を記した上位合格者の方のブログが残っていると思いますので、是非読み込んで、それを参考に勉強法を見定めてみて下さい。